「賃貸の収入にかかる税金の基礎知識」個人の場合

不動産を賃貸したときには、どのような税金がかかるのでしょうか?

皆さんは、個人に対してかかる税金として何を思い浮かべますか?

一つは「所得税」という名称の税金を聞いたことがあるのではないでしょうか?

しかしながら、個人に対してかかる税金には他にもあります。

今回は、個人という納税主体に着目をして不動産賃貸に関する税金の理解を深めて頂きたいと思います。

具体的な計算例もお伝えしますので、最後までお読み頂ければと思います。

個人の所得に対する税金はどのように考えれば良いのでしょうか?

個人が納める税金として代表的なものが「所得税」でしょう。

しかしながら、個人が納める税金としては、その性質によって以下のような所得の内容で分けることが出来ます。

具体的には、配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・一時所得・雑所得・利子所得・譲渡所得・退職所得・山林所得です。

これらの所得がどのように税金として課税されることになるのか以下でみていきましょう。

個人の所得の税金の計算方法について

個人の税金を計算するためには、以下の所得税・復興特別所得税・個人住民税・個人事業税のそれぞれの税金額を計算し、合計を算出する必要があります。それぞれの税金の計算方法について、以下で順番に見ていきましょう。

所得税の場合

所得税の計算には個人が一年間に得た所得から国民年金などの社会保険を控除したものを、課税していくことになります。

先程確認したそれぞれの所得は以下の図のような課税の仕組みがとられています。

所得の種類 税率 課税の方法
配当所得 累進課税 総合課税
不動産所得 累進課税 総合課税
事業所得 累進課税 総合課税
給与所得 累進課税 総合課税
一時所得 累進課税 総合課税
雑所得 累進課税 総合課税
利子所得 15% 源泉分離課税
譲渡所得 短期30%、長期15% 分離課税(例外あり)
退職所得 累進課税 分離課税
山林所得 5分の1にして累進課税 分離課税

それでは、所得税の累進課税の税率について見ていきましょう。

課税対象所得 税率 控除
0円~195万円以下 5% 0円
195万円超~330万円以下 10% 97,500円
330万円超~695万円以下 20% 427,500円
695万円超~900万円以下 23% 636,000円
900万円超~1800万円以下 33% 1,536,000円
1800万円超~4000万円以下 40% 2,796,000円
4000万円超~ 45% 4,796,000円

復興特別所得税の場合

復興特別所得税とは、2011年に起こった東日本大震災の復興財源に使用されることを目的とした在勤です。

復興特別所得税は、以下のように計算されます。

復興特別所得税 = 所得税額 × 2.1%

この場合、計算式に用いるのは、課税の対象となる所得金額ではなく、「所得税額」であることに注意してください。

つまり、復興特別所得税は、所得税の金額を算出することにより求めることが出来るという訳です。

個人住民税の場合

個人住民税は、住民票のあるお住まいの地域において、納めなければいけない税金です。

個人住民税は次のような式で表すことが出来ます。

個人住民税 = 所得割額 + 均等割額

ここで、所得割額について算出するための計算式を覚えておきましょう。

(1) 所得割額 = (前年の所得金額―所得控除) × 10% - 控除金額

次に、均等割額について算出するための計算式はコチラになります。

(2)均等割額 = 都道府県民税 + 市区町村民税
= 1,500円 + 3,500円
= 5,000円 

個人事業税の場合

個人事業税とは、個人事業主として事業を運営することに対して課税される税金です。

個人事業税は、以下のように算出することが出来ます。

個人事業税 = (個人収入-経費-社会保険料などの控除-290万円) × 税率

個人が不動産を貸し付けたときの税金を計算してみましょう

さて、これまで個人が負担する税金について見てきましたが、実際に税金の計算を行ってみたいと思います。

ケースとしては、以下のものを考えてみましょう。

不動産賃貸による所得:700万円
社会保険料などの控除金額:200万円
青色申告により、申告することとします。

まずは、課税の対象となる所得を算出します。
課税の対象となる所得 = 1年間の総所得 - 経費
= 700万円 - 200万円
= 500万円

所得税 = 課税所得金額 × 税率 - 控除金額

所得税の税率は、上図の表を参考にすると、
500万円は、「330万円超~695万円以下」に該当しますので、20%ということが分かります。また、控除金額は、427,500円であることが分かります。

よって、

所得税 = 500万円 × 20% - 427,500円
= 572,500円

続いて、復興特別所得金額についてですが、

復興特別所得税 = 所得税額 × 税率 
= 572,500円 × 2.1%
= 12,000円

個人住民税については、

個人住民税 = 所得割額 + 均等割額
= 500万円 × 10% + 5000円 
= 505,000円

個人事業税については、

個人事業税 = (700万円 + 65万円(青色申告) - 290万円) × 5%
= 237,500万円

従って、今回のケースで個人が負担する税金は、

個人が負担する税金 = 所得税+復興特別所得税+個人住民税+個人事業税
= 572,500円+12,000円+505,000円+237,500円
= 1,327,000円

不動産を賃貸したときの所得について

不動産を賃貸したときの所得についてはどのように課税されることになるのでしょうか?

また、その場合の税率を少しでも抑えることのできる方法として何か考えられる方法があるのかについて、解説をしていきたいと思います。

不動産を貸したら所得はどのように計上されるのか?

不動産を賃貸するときの所得についても気を付けなければいけないポイントがあります。

それは、得られる所得の金額によっては、異なる種類の所得として計上されることがあるためです。

通常では、不動産を賃貸することにより得られる所得は、「不動産所得」に分類されることになっています。

ところが、不動産賃貸に伴う金額が一定以上になると、「不動産所得」ではなく、「譲渡所得」として捉えられることになるということです。

ここで、不動産所得でも譲渡所得でもどちらでも良いのではないかと考えられた方はいらっしゃいませんか?

実は、ここが少しポイントとなるのですが、不動産所得と譲渡所得とでは、冒頭の図でも記載しましたように、課税方法が異なることになっています。

不動産所得は累進課税により税率が決められることになっていますが、譲渡所得の場合には事業所得や給与所得とは別の課税方法により税率が算出されることになるため、注意が必要です。

不動産を賃貸した場合の税金を少しでも抑えるためには?

上記の通り不動産所得の課税方法は、累進課税の仕組みを採っています。

不動産所得というと、家賃、権利金、礼金などによる所得のことを言います。

ところが、こうした所得の受け取り時期によっては、ある年のみ不動産所得が大幅に大きくなることがあります。

例えば、毎月一定の賃料を受け取ることになっているとして、権利金などの所得が一時的に増えたときには、支払い税金が膨れ上がることになってしまいます。

このような場合に、少しでも累進課税による税金を減らす方法があります。

それは、「平均課税」という方法で、(1)3年以上にわたって不動産を賃貸すること、(2)一時的な不動産所得が通常もらい受ける賃料2年分以上であること、(3)一時的な不動産所得の金額が、所得合計額の2割以上であること、という3つの条件を満たすことで利用することが出来ます。

先程のケースをもとに、具体的に計算をして考えていきましょう。

通常通り不動産所得による税金を計算しますと、次のようになります。

500万円 × 20% - 427,500円
= 572,500円

ここで、500万円の所得のうち一時的な所得が200万円であったとしましょう。

その場合の平均課税による計算は以下のようになります。

今回は、一時的な所得が1/5として税率を適用することにします。

300万円 + 200万円 × 1/5 = 340万円

340万円は、「330万円超~695万円以下」に該当しますので、税率は20%ということが分かります。

また、控除金額は、427,500円であることが分かります。

よって、

340万円 × 20% - 427,500円 = 252,500円
252,500円/340万円 = 7.4%

200万円 × 4/5 × 7.4% = 118,400円

252,500円 + 118,400円 = 370,900円

よって、通常納める税金との差額は、201,600円となります。

この方法を用いると、税金を安く済ませることが出来ますので、是非おススメです。

税務申告のポイント

個人でも不動産を賃貸して事業を運営している場合には、確定申告をしなければいけません。

確定申告をするには、申告の方法として青色申告及び白色申告があります。

それぞれの申告の特徴についてまとめましたので確認してみましょう。

特別控除 損失の繰越控除 損失の繰戻還付 専従者給与
青色申告 65万円まで 3年間 損失額に合わせて還付 原則必要な経費として計上可
白色申告 なし 一部損失に限る なし 1人50万円まで

青色申告を利用すると、白色申告では見られない確定申告のための控除金額を使用することが出来ること、万一事業で赤字を出した場合でも損失を3年間にわたって控除することが出来る青色申告に対し、白色申告の場合は一部の条件しか対象とはならないなど、記帳の要件は細かくはなりますが、青色申告の方が、優遇が大きいことが分かります。

具体的な青色申告の場合を選択する場合の条件としては、(1)適正に申告書を記載すること、(2)所定の期間に確定申告をすること、(3)複式簿記の方法にて基調を行うこと、(4)貸借対照表並びに損益計算書を添付し控除金額をきちんと記載していること、が挙げられます。

青色申告を行う場合には、行っている事業が「事業的規模」である必要があると考えられています。

それでは、「事業的規模」とはどのようなものを指すのでしょうか?

不動産賃貸業を営むにつき、「事業的規模」と言えるための基準は、実質的に判断されることになっています。

それでは分かりづらいとは思いまので、例を挙げますと、アパートなどでは10室以上を賃貸するような場合、一戸建ての場合には5棟以上を貸し付ける場合を言います。

法人を利用して運営することも検討しましょう

さて、最初にみてきましたように個人で不動産賃貸業を営む場合には、所得税が累進課税の方式を採られていますので、利益を上げれば上げるほど税金が大きくなるということになります。

そこで、税金を抑えるための対策として、法人を利用することが挙げられます。

法人の場合には、累進課税ではないため、一定額以上の利益を出す事業であれば、個人の方が安く済みますし、所得を報酬などいくつか方法で分散して受け取るようにすることが出来るのもメリットとなります。

ここで、考えられる不動産法人化の形態について考えてみましょう。

(1)不動産を法人は所有する場合
個人が所有していた不動産の名義を法人に移すことにより、不動産賃貸による税金を抑えることが出来ます。

(2)不動産を法人が借りる場合
個人で所有していた不動産を法人が借り上げて、転貸することにより利益を上げる方法です。

(3)不動産の管理を外部に委託する場合
不動産の管理会社に個人所有の不動産の管理を委託する場合です。

ここで、不動産を個人で賃貸することのメリットについて考えてみたいと思います。

法人の場合とは異なり、個人の場合には赤字になった場合には税金が発生しないこと、交際費をすべて経費として計上することが出来ることが挙げられます。

また、累進課税の方式をとっていますが、利益があまり出ていない状態のときは、個人の方が納める税金を抑えることが出来るという特徴があります。

まとめ

不動産を個人で賃貸した場合について見てきましたが、少しでもご理解頂けましたでしょうか?

個人の場合でも所得税以外にも個人住民税や個人事業税など多くの種類の税金について考える必要があることを覚えておきましょう。